SONY トリニコン 撮像管
注意:この記事の内容を鵜呑みにし、事故や損失を招いた場合でも当方は一切の責任は負いかねます。自己責任でお願いします。
SONYが開発した単管式カラー撮像管と呼ばれる真空管です。
SONYといえば映像表示器のブラウン管の「トリニトロン」が有名ですが、「トリニコン」という受像真空管も開発していました。
撮像管内の電子ビームの集束と偏向
撮像管の受光面には入る光量?光強度?で抵抗値が変化する光導電膜が塗布されています。
撮像管の原理は、広大な光導電膜面のピンポイントの箇所のみにどうにかして電気的に導通させて逐次抵抗値を測定する感じです。
集束
撮像管のカソードから放出される電子ビームを光導電膜面でちょうどピントが合う(点になる)ようにすることで、光導電膜面のピンポイントの部分のみに電流を選択的に流せます。
もちろん、集束具合が高い設計の撮像管ほど、管の小型化や高画質化につながります。
各ピントの状態のイメージはこんな感じでしょうか。
ピントが合った時(理想)
(カソード)] =電子ビーム> |(光導電膜面)
ピントが合わない時(集束不足)のイメージ
(カソード)] =電子ビーム〕|(光導電膜面)
ピントが合わない時(過集束)のイメージ
(カソード)] =電子ビームX |(光導電膜面)
偏向
撮像管のカソードから放出される電子ビームの集束先を光導電膜面の任意の位置に移動させます。
電子ビームの集束先の移動(走査)の精度や安定性が高くないと映像が歪んでしまいますね。
各走査の状態のイメージはこんな感じでしょうか。
直線的(理想)
///
///
///
直線でない(要調整)
///
|||
\\\
撮像管内の電子ビームの集束と偏向には、電界や磁界を利用します。
電子の進行方向は、その空間の電場や磁場によって変化します。
板電極やコイルを使っていい感じの電場や磁場を作って電子ビームの集束と偏向をしてあげることで、初めて撮像管は撮像素子となります。
基本的には、電界か磁界かを利用すればよいのですが、
4つの組み合わせが考えられます。
➀集束:電場、偏向:電場 静電集束・静電偏向(SS方式)
➁集束:電場、偏向:磁場 静電集束・電磁偏向(SM方式)
➂集束:磁場、偏向:電場 電磁集束・静電偏向(MS方式)
④集束:磁場、偏向:磁場 電磁集束・電磁偏向(MM方式)
分解した傾向から家庭用の単管式撮像管カメラは、➁の静電集束・電磁偏向(SM方式)が多いですね。
話がそれますが、実はブラウン管も電子ビームの集束と偏向を行っており、テレビ用ブラウン管はSM方式が主流です。
オシロスコープのブラウン管は、➀静電集束・静電偏向 (SS方式)が多いです。電磁偏向より静電偏向のほうが管長が長くなってしますため、画面の大型のブラウン管作りにはむいていません。
業務用の3管式撮像管カメラは、④の電磁集束・電磁偏向 (MM方式)が多いらしいです。
電子ビームの集束については、電磁集束と静電集束の両方を利用したものもあります。
トリニコン
さて、SONYが開発した単管式カラー撮像管 トリニコン(TRINICON)はどのタイプかというと、➂の集束:磁場・偏向:電場 (MS方式)となっています。
SONYはMF方式 (ミックスフィールド方式)と呼んでいるようです。
中でも、静電偏向撮像管は、静電偏向電極の形状であるパターンヨークが独特で、ギザギザした山と谷の金属箔がガラス管の内側に取り囲んでいます。
このパターンヨークはデフレクトロン(Deflectron)と呼ばれているそうです。
ᐱᐯᐱᐯᐱᐯᐱᐯᐱᐯᐱᐯᐱᐯᐱᐯ
ᐱᐯᐱᐯᐱᐯᐱᐯᐱᐯᐱᐯᐱᐯᐱᐯ
ᐱᐯᐱᐯᐱᐯᐱᐯᐱᐯᐱᐯᐱᐯᐱᐯ
ᐱᐯᐱᐯᐱᐯᐱᐯᐱᐯᐱᐯᐱᐯᐱᐯ
詳しくはわかりませんが、この魔法陣みたいな不思議な模様により、管軸方向に対して水平な面領域に均一な電界分布とすることができるようです。
一般的に、単管式カラー撮像管の光導電膜面の前段階には、三原色の光をそれぞれ通すフィルタ(ストリップフィルタ)が付いています。
トリニコンのストリップフィルタは、RGBRGBRGBRGBRGB…のように等間隔で無数に並んでいます。
入射光はそれぞれの色のフィルタを通過して光導電膜面に到達します。
水平方向に電子ビームを一定速度で走査させると、RGBRGBRGBRGBRGB…の光強度に応じた信号が得られます。
撮像管に流れる電流は、1次元(1経路)のみなので、このままでは色の情報が得られません。
そこで、ストリップフィルタが等間隔でかつ電子ビームの走査速度が一定であることを利用します。
等間隔なストリップフィルタ越しの光導電膜面を一定速度で走査すると、光強度に応じた特定の周波数fの信号を得られます。
例えば赤色のみ受光した場合、
⨅__⨅__⨅__⨅__⨅__…
のような撮像管のターゲット電流が得られます。
また、緑色のみ受光した場合、
_⨅__⨅__⨅__⨅__⨅_…
のような撮像管のターゲット電流が得られます。
白色(青、赤、緑が等光量)を受光した場合、
--------------- …
のように撮像管のターゲット電流は直流になりますね。
白色成分は輝度信号となります。
つまり、撮像管のターゲット電流信号を周波数fのBPF(バンドパスフィルタ)に通した後、
(2/3)πごとに位相分離をすることで、各色成分が得られます。
撮像管のターゲット電流信号にLPF(ローパスフィルタ)を通すと、輝度信号が得られます。
さて、この手順の中で一番難しいのが、位相分離です。
撮像管に流れる電流は、1次元(1経路)なので、基準となる位相が無ければ位相分離後の色が確定しません。
例えば、赤色のみの光を撮像管に与えたとしても撮像管のターゲット電流信号からは赤色のみなのか緑色のみなのか青色のみなのか判別がつきません。
電子インデックス電極
トリニコンはどうやってこの位相基準信号を得ているかというと、「電子インデックス電極」というものを新たに追加しましています。
この電子インデックス電極は可視光を透過する素材でできています。
電子インデックス電極の形状は、CdSの受光面みたいにくし形電極がかみ合っている感じで2電極あります。
撮像管の構造的には
「入射光窓(ガラス)」
「ストライプフィルタ」
「ガラス」
「電子インデックス電極」
「光導電膜」
3色ストライプフィルタと電子インデックス電極αとβの位置関係は下のような感じです。
α
RRGGBBRRGGBBRRGGBB…
RRGGBBRRGGBBRRGGBB…
RRGGBBRRGGBBRRGGBB…
RRGGBBRRGGBBRRGGBB…
β
さて、この電極の追加によって撮像管のターゲット電流がどのように変化するか見てみます。
2つの電子インデックス電極αとβに片方はP+J[V]、片方はP-J[V]の電圧をかけておきます。
ここで、Pは光導電膜の電圧、Jはオフセット電圧です。
まず、1ライン目を走査する時は、αにP+J[V]、βにP-J[V]を印加します。
撮像管のターゲット電流は、αを通過時には少し増え、βを通過時には少し減ることとなります。厳密には、光導電膜への電荷の蓄積具合の変化ですが、ここでは省略します。
1RRGGBBRRGGBBRRGGBB…
次に、2ライン目を走査する時は、αとβのオフセット電圧の極性を入れ替えます。αにP-J[V]、βにP+J[V]を印加します。
撮像管のターゲット電流は、αを通過時には少し減り、βを通過時には少し増えることとなります。
2RRGGBBRRGGBBRRGGBB…
3ライン目以降は上の2つを繰り返します。
1RRGGBBRRGGBBRRGGBB…
2RRGGBBRRGGBBRRGGBB…
3RRGGBBRRGGBBRRGGBB…
4RRGGBBRRGGBBRRGGBB…
5RRGGBBRRGGBBRRGGBB…
6RRGGBBRRGGBBRRGGBB…
…
最終的には上のイメージの電流が流れます。
色信号の取得
ここで、1ライン目と2ライン目の電流波形(時間変化)を足してみましょう。
オフセット電圧+Jと-Jが打ち消されて色ごとの光強度による電流のみ残ります。
1+2RRGGBBRRGGBBRRGGBB…
2ライン目と3ライン目も足してみると、同じく色ごとの光強度による電流のみ残ります。
2+3RRGGBBRRGGBBRRGGBB…
つまり、電子インデックス電極がある撮像管(トリニコン)の場合、1ライン遅延した信号と現信号を加算すると、「電子インデックス電極」の前で説明した色信号が得られます。
1+2RRGGBBRRGGBBRRGGBB…
2+3RRGGBBRRGGBBRRGGBB…
3+4RRGGBBRRGGBBRRGGBB…
4+5RRGGBBRRGGBBRRGGBB…
5+6RRGGBBRRGGBBRRGGBB…
6+7RRGGBBRRGGBBRRGGBB…
…
映像としては1つまえのラインを加算しているので、微妙なぼやけが生まれるのでしょうか?
位相信号の取得
2ライン目から1ライン目の電流波形(時間変化)を減算するとどうなるでしょう?
オフセット電圧+Jから-Jを引くまたは-Jから+Jを引くので、オフセット電圧は強められます。
逆に1ライン目から2ライン目の色がほぼ一緒であれば、色信号は打ち消し合い、
電子インデックス電極のオフセット電圧に起因する電流のみ残ります。
2-1 …
同様に3ライン目から2ライン目の電流波形を減算すると電子インデックス電極のオフセット電圧に起因する電流のみ残ります。
3-2 …
つまり、電子インデックス電極がある撮像管(トリニコン)の場合、1ライン遅延した信号から現信号を減算すると、「電子インデックス電極」の形状に由来する信号成分を多く得られます。ライン間の色の違いが激しいと、ちゃんと得られなくなりますが、大体は平気のようです。
グレーや白色を受光した時は、ストリップフィルタ由来の周波数fの信号が出にくく、BPFを通すとオフセット電流が得られないような気がしますがそこはどうなんでしょうか。謎です。(色が無い場合は位相信号が不要であるということなんでしょうか。)
2-1 …
3-2 …
4-3 …
5-4 …
6-5 …
7-6 …
このままでは位相基準信号として使いにくいので、奇数ラインを引いた時のオフセット電流を反転します。
2-1 …
3-2 …
4-3 …
5-4 …
6-5 …
7-6 …
これで位相基準信号が得られました。
位相基準信号と色信号の関係は一致しています。
上記例では、橙になった瞬間の周波数fの信号成分はR、橙になった瞬間から(2/3)π位相がずれたらG,橙になった瞬間から(4/3)π位相がずれたらBの信号であると検知することができます。
実際のトリニコン
空気が入ってしまってゲッタが白色になっています。
2/3インチ管です。
集束ヨーク
右側の茶色と白色のケーブルは集束ヨークへ、赤色のケーブルはメッシュ電極端子へ接続されています。
SONY
MF
TRINICON
CT-2133
A102199
8-701-021-33
MADE IN JAPAN
左上の2本の線が電子インデックス電極へ接続されています。
電子インデックス電極の端子は、撮像管の受光面のガラスから直接出ています。
封入に少し問題があるのかもしれませんね。
管壁にはパターンヨーク(デフレクトロン)があります。
9周期分の山と谷があります。
白い樹脂の上の金属帯がメッシュ電極と接続された端子です。
電子インデックス電極は直接はんだ付けされています。
1A
FD-07
参考資料
デフレクトロンのことなど
静電偏向型撮像管の解析
奥 健太郎, 福島 正和, テレビジョン学会技術報告 7巻(1983)6号, p.43-48
トリニコンのインデックス電極のことなど
電子インデックスによる位相分離方式単管カラーカメラ
窪田 泰治・黒川 弘道・塩野 隆史・田川 進 ・蠣崎 武広, テレビジョン 第27巻 第4号(1973), p.243-251
トリニコン カラーカメラ(単管カラー撮像方式の動向)
窪田 泰治, 蠣崎 武広
1979年 テレビジョン学会技術報告 2巻24号 p.13-18
静電偏向の撮像管
Lamps & Tubes
Vidicon camera tube, prototype
Tube de prise de vue
Bildaufnahmeröhre
SONY TRINICON HVC-F1のカタログなど
ソニー坊やと呼ばれた男
トリニコン 1982年11月
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