2025年5月23日金曜日

フォトカプラTLP250, TLP251, TLP351はMIDI受信回路で使えるのか?

 
フォトカプラTLP250, TLP251, TLP351はMIDI受信回路で使えるのか?

注意:この記事の内容を鵜呑みにし、事故や損失を招いた場合でも当方は一切の責任は負いかねます。自己責任でお願いします。


秋月電子にて特価で販売されていたゲートドライブ用フォトカプラであるTLP351をMIDI受信回路用として使えるか調べてみました。

その結果、TLP351の場合、フォトカプラ2次側の電源電圧を高くすれば使えなくもないことがわかりました。
ついでにTLP250, TLP251についても調べてみたところ、フォトカプラ2次側の電源電圧が5Vの場合でも使えそうということがわかりました。
TLP250, TLP251, TLP351のいずれも非反転型のフォトカプラなので、MIDI用のフォトカプラとして使うにはフォトカプラ出力を反転させる必要があります。


MIDI受信回路で使われるフォトカプラのPC900V, 6N138 PC910Kと
6N138のCTR違いの6N139


MOSFET・IGBTゲート駆動用フォトカプラのTLP250, TLP251, TLP351, PC957Lと汎用フォトカプラのPC817




・ゲートドライブ用のフォトカプラをMIDI受信回路に流用できるかを調べる



MIDI規格書で示してあるフォトカプラの受信波形とゲートドライブ用のフォトカプラ受信波形の比較してみました。

MIDI受信回路用のフォトカプラとして満たさなければいけないのが、入力と出力の遅延時間が2μs未満でなければならないことです。
もっと言うと、立ち上がり遅延時間と立ち下がり遅延時間ができるだけ近い方が良いです。
今はあまり使われていない?と思いますが、MIDI機器には受信データをそのまま出力するMIDI THRU出力があります。これは機器内部の受信フォトカプラが受信したデータをバッファを経て出力されます。
つまり、場合によってはフォトカプラの数珠繋ぎが起きるというわけです。立ち上がり遅延時間と立ち下がり遅延時間のバランスが悪いと、フォトカプラを経由するたびにHレベルパルス幅またはLレベルパルス幅のどちらかが短くなっていきますね。同じ遅延時間であれば、このようなことが起こりにくいでしょう。


MIDI 1.0規格書には、以下に示すような推奨するフォトカプラの例が載っています。
NJL-5127D  NJL5127D   TPLH:標準2μs,TPHL:標準1μs
TLP513   TPLH,TPHL:標準60ns
PC-900V PC900   TPLH:標準2μs,TPHL:標準1μs
PC-410(K)  PC410   TPLH,TPHL:標準50ns
PC-910(K)  PC910   TPLH,TPHL:標準50ns
HCPL-260L   TPLH:最大90ns,TPHL:最大75ns
HCPL-261A  TPLH:標準52ns,TPHL:標準53ns
HCPL-M600(Rd=1kΩ) TPLH:標準48ns,TPHL:標準50ns
QCPL-M605#500 不明

また、MIDI 1.0 電気的仕様改訂 CA-033には、6N138を使用した例が載っています。


今回比較するフォトカプラは、手持ちにあるPC900VとPC910K、6N138です。
おまけとして6N138に近い6N139、インバータ向けのパワーMOSFET駆動用フォトカプラPC957L、スイッチング電源等でよく見かける低速のフォトカプラPC817も見てみます。


以下のフォトカプラに100kHz(H期間5μs, L期間5μs)の矩形波を入力した時の出力波形を見てみます。
PC900V
PC910K
6N138
6N139
PC957L
PC817
TLP250
TLP251
TLP351

プレッドボードでの簡易的な実験です。




・PC900V






プローブ帯域 : 10MHz

・遅延パルス幅測定式
T_PHL_INV : (5-abs(A-B))*A
T_PLH_INV : (5-abs(A-B))*(5-B)

・フォトカプラ1次側
LED入力抵抗 : 470+220Ω

・フォトカプラ2次側
フォトカプラ電源電圧VCC : 5V
プルアップ抵抗 : 270Ω
Cx_out : 33p~100pF
プローブ容量 : 約65pF


MIDI受信回路の標準構成です。
フォトカプラ入力側の外付けダイオードは省略しています。
出力の立ち上がり遅延時間(LEDがON→OFF)が1.8μsとなっています。規定では2μs未満なので良いでしょう。出力の立ち下がり遅延時間(LEDがOFF→ON)が0.6μsであり、立ち上がり遅延時間と比較すると3倍くらい速度の違いがあります。
今時、このフォトカプラをあえて選ぶ必要はないと思います。

この手のフォトカプラの場合、入力側のLEDの応答が遅いことや、フォトトランジスタを使っていることもあり、どうしても遅延が目立ちます。
とはいえ、MIDI THRUを利用しない場合、このPC900Vでも十分MIDIです。



・PC910K






プローブ帯域 : 10MHz

・遅延パルス幅測定式
T_PHL_INV : (5-abs(A-B))*A
T_PLH_INV : (5-abs(A-B))*(5-B)

・フォトカプラ1次側
LED入力抵抗 : 470+220Ω

・フォトカプラ2次側
フォトカプラ電源電圧VCC : 5V
プルアップ抵抗 : 270Ω
Cx_out : 33p~100pF
プローブ容量 : 約65pF


MIDI受信回路で使用しても文句なしの高速なフォトカプラです。
立ち上がり・立ち上がり遅延時間はともに80nsと出ていますが、プローブ帯域が10MHzのものを使用したため、正しく評価できないと思います。
こちらのフォトカプラPC910Kは入手性が悪いのであまりおすすめしません。

PC910LとPC910Kの違いは不明ですが、おそらくパッケージが違うのかもしれません。
末尾Kは冒頭の画像の通り、うすエメラルドグリーン色のエポキシ樹脂で封入されています。
末尾LはPC957Lの画像のような黒色のエポキシ樹脂で封入ている物と予想します。



・6N138





プローブ帯域 : 10MHz

・遅延パルス幅測定式
T_PHL_INV : (5-abs(A-B))*A
T_PLH_INV : (5-abs(A-B))*(5-B)

・フォトカプラ1次側
LED入力抵抗 : 470+220Ω

・フォトカプラ2次側
フォトカプラ電源電圧VCC : 5V
出力プルアップ抵抗 : 270Ω
ベース抵抗 : 1kΩ
Cx_out : 33p~100pF
プローブ容量 : 約65pF





PC900Vと同程度のMIDI受信回路用として推奨されているフォトカプラです。
立ち上がり・立ち下がり遅延時間は、7番ピンのベース抵抗で調整できます。

ベース抵抗は何も考えず適当に1kΩを入れています。
ベース抵抗で立ち上がり・立ち下がり遅延時間が近くなるように調整すれば、MIDI THRUで数珠繋ぎしても問題なさそうです。




・6N139




プローブ帯域 : 10MHz

・遅延パルス幅測定式
T_PHL_INV : (5-abs(A-B))*A
T_PLH_INV : (5-abs(A-B))*(5-B)

・フォトカプラ1次側
LED入力抵抗 : 470+220Ω

・フォトカプラ2次側
フォトカプラ電源電圧VCC : 5V
出力プルアップ抵抗 : 270Ω
ベース抵抗 : 3.3kΩ
Cx_out : 33p~100pF
プローブ容量 : 約65pF


6N138のCTR違いのフォトカプラです。
ベース抵抗は適当に選んでいます。
このフォトカプラは出力抵抗を大きくしないと速度が出にくいのかもしれません。
ベース抵抗が3.3kΩということもあり、出力波形がかなり歪んでいます。

この状態でもMIDIの受信は可能です。ですが、MIDIの受信回路として使うには出力抵抗とベース抵抗をちゃんと調整する必要がありそうです。



・PC957L







プローブ帯域 : 10MHz

・遅延パルス幅測定式
T_PHL_INV : (5-abs(A-B))*A
T_PLH_INV : (5-abs(A-B))*(5-B)

・フォトカプラ1次側
LED入力抵抗 : 470+220Ω

・フォトカプラ2次側
フォトカプラ電源電圧VCC : 5V
出力プルアップ抵抗 : 3.3kΩ
Cx_out : 33p~100pF
プローブ容量 : 約65pF


インバータ向けのパワーMOSFET駆動用フォトカプラのPC957Lです。
CTRが最大でも50%と低く、出力電流があまりとれません。高抵抗な出力抵抗を付けると立ち上がりがなまりやすいです。
立ち上がり・立ち下がり遅延時間がともに0.5μs程度とPC900Vよりかは良さそうです。
出力にシュミットトリガのバッファ等を付け足してキレを良くすればMIDI受信回路にも使えそうです。





・PC817







プローブ帯域 : 10MHz

・フォトカプラ1次側
LED入力抵抗 : 470+220Ω

・フォトカプラ2次側
フォトカプラ電源電圧VCC : 5V
出力プルアップ抵抗 : 270Ω
Cx_out : 33p~100pF
プローブ容量 : 約65pF

おまけで測定したPC817です。似た性能のフォトカプラのTLP521等もこんな感じでしょう。
見ての通り、スイングしきれていません。
LED入力抵抗によるの応答の遅さ(特にON→OFF)や、フォトトランジスタの蓄積電荷の影響でもはや矩形波とは言えません。
このような回路では、MIDIの受信回路としては不適当です。



PC817をMIDI受信回路として使用している例があるようです。

JO-MIDI-FM
--- Joy Of MIDI FM tone generator ---
汎用 4 ピンフォトカプラを使った MIDI 入力

この方は、PC817の出力にカレントミラー回路を挟んで速度改善を図り、MIDIの受信回路として使えるようにしているようです。



・TLP250, TLP251

TLP250の場合

TLP251の場合


TLP250

TLP251


TLP250(出力にプルダウン抵抗1kΩを追加)


TLP251(出力にプルダウン抵抗1kΩを追加)




プローブ帯域 : 10MHz

・遅延パルス幅測定式
T_PHL : (abs(A-B))*(B)
T_PLH : (abs(A-B))*A

・フォトカプラ1次側
LED入力抵抗 : 470+220Ω

・フォトカプラ2次側
フォトカプラ電源電圧VCC : 5V
Cx_out : 33p~100pF
プローブ容量 : 約65pF



本来これらのフォトカプラの電源電圧は10V以上としなければいけないですが、5Vでも一応動作します。
立ち上がり立ち下がり遅延時間は、PC900Vよりかなり速くMIDIのボーレートである31250bpsに十分対応できます。

あとは、ゲート駆動用のフォトカプラだけあって容量性の負荷にはかなり強いです。
TLP251はTLP250よりも立ち上がり速度が気持ち少し速く、立ち上がり立ち下がり遅延時間のバランスが良さそうです。

ただし、フォトカプラ内部のハイサイド側のトラジスタがNPNであることもあり、Hレベルの出力時には、5Vまでスイングしない場合もあります。

しかも、データシートをよく見るとTLP250とTLP251の出力のトランジスタの構成が異なります。
TLP250は、NPNエミッタフォロワ(ハイサイド)+PNPエミッタフォロワ(ローサイド)となっており、
TLP251は、NPNエミッタフォロワ(ハイサイド)+NPNエミッタ接地(ローサイド)となっています。

TLP250の場合、プルアップ抵抗やプルダウン抵抗を付けなくてもある程度スイングします。むしろ、プルアップ抵抗やプルダウン抵抗を付けてしまうと、付けていない方のレベルが移動してしまう欠点があります。

TLP251の場合、容量性負荷でもHレベルは4.2V程度までしかスイングしないため、数k~数十kΩ程度のプルアップ抵抗をつけると良さそうです。
ローサイド側の出力トランジスタがNPNエミッタ接地で構成されているので、プルアップ抵抗によるLレベルの上昇はほぼ無いです。MIDIの受信回路へ流用することを考えると、かなりおすすめです。
ただし、入手性はあまり良いとは言えず、あえてTLP251を使うメリットは無いので、部品箱にあったらMIDI受信回路に使える!程度でしょうか。


MIDI受信回路に使う場合はフォトカプラの出力にインバータ(NOTゲート)を入れて論理反転させる必要があります。
インバータとして、ワンゲートロジックのTC7S04やNC7SZ04が便利そうです。
マイコン側にUART受信の論理反転機能があれば、インバータは不要です。

総合的に見てTLP250とTLP251は、MIDI受信回路に流用しても問題ないと思います。



今回は未入手で試していませんがTLP250の親戚?にTLP250Hというのがあります。こちらはTLP351に近い特性と予想します。TLP250との大きな違いは、出力段がNchMOSFETのトーテムポールとなっていることです。
後述するTLP351もこのタイプなのですが、電源電圧が低い時にシャットダウンする厄介な機能がある可能性が高いです。
いずれ電源電圧が5Vの時の挙動を測定してみたいです。
もし、低電圧シャットダウンが無ければ、TLP251と同様にMIDI受信回路として比較的使いやすいフォトカプラだと思います。






・TLP351








プローブ帯域 : 10MHz

・遅延パルス幅測定式
T_PHL : (abs(A-(5*B/9)))*((5*B/9))
T_PLH : (abs(A-(5*B/9)))*A

・フォトカプラ1次側
LED入力抵抗 : 470+220Ω

・フォトカプラ2次側
フォトカプラ電源電圧VCC : 9.0V
Cx_out : 33p~100pF
プローブ容量 : 約65pF


TLP351の場合、VCC-GND間の電圧が電源電圧である8.1~8.6V(ヒステリシス特性, 実測値)より低いときに動作を停止させる回路(低電源電圧時シャットダウン機能)が入っているようです。
電源電圧が8.1~8.6V未満の時でかつ、ローサイド側のMOSFETがオンになれる電源電圧の時、TLP351の出力段のローサイド側のMOSFETがONになります。
大電力のスイッチング用MOSFETのゲートを駆動する場合にはありがたい機能なのですが、MIDI受信回路への流用を考えると少々面倒です。
TLP351の電源を5Vとしたときには、常にLレベルが出力されます。


遅延特性を見ると、立ち上がり立ち下がり遅延時間のバランスが良さそうです。
TLP250やTLP251と同様に速度だけ見ればMIDI受信回路に利用しても問題ないです。
ただし、9V以上の電源が必要になり、さらにレベル変換回路も付け足さなければいけません。
論理反転のついでに3.3Vや5Vにレベル変換するのが良さそうです。
インバータはディスクリートでCMOSを構成するのが簡単でしょう。

このデメリットを抱えてまで、あえてTLP351を選ぶ必要はないと思います。
考えるとすれば、TLP351の低電源電圧時シャットダウン機能を活かして、電池などで動かしたときに電源電圧が9V未満でMIDIの受信を自動停止する機能とかできそうでしょうか?

5V電源から9V以上の電源を確保する場合は、チャージポンプ回路が良さそうです。
 


・TLP250, TLP251, TLP351をMIDI受信用として使う場合の回路

最後にTLP250, TLP251, TLP351をMIDI受信用として使う場合の回路の例を紹介します。

TLP250


TLP251


TLP351




TLP250の場合は、シンプルにフォトカプラ出力にワンゲートロジックのインバータを挟んでいます。
TLP251の場合は、TLP250の構成に加え1.5kΩのプルアップ抵抗を追加しています。
TLP351の場合は、フォトカプラの電源電圧を最低でも9V以上にする必要があり(保証値は10V)、さらにレベル変換を兼ねたディスクリート構成のインバータ回路を付けています。


立ち上がり・立ち下がり遅延時間で見た場合のおすすめ順は、
PC910>TLP251=TLP351>TLP250>>PC900=6N138

回路規模で見た場合のおすすめ順は、
PC910>PC900>6N138>>TLP250>TLP251>>TLP351

入手性を除いた総合的なおすすめ順は、
PC910>>TLP251>TLP250>PC900=6N138>>TLP351
でしょうか。





おまけ : 東芝TLPシリーズの命名規則


東芝のフォトカプラTLPシリーズは、TLPの後ろに3桁または4桁の数字が続きます。
3桁タイプの場合、TLP直後の数字(3桁目、一番左の数字)はパッケージおよび絶縁電圧を示しています。
2桁目が出力タイプを表しています。
0 : IC出力、フォトリレー
1 : IC出力
2 : 4/8/16ピン マルチチャンネル
3 : 6ピン
4 : サイリスタ出力、フォトリレー
5 : IC出力
6 : トライアック出力
7 : フォトリレー
8 : トランジスタ出力、ダーリントントランジスタ出力
9 : トランジスタ出力、フォトリレー、フォトボル出力




・参考資料


MIDI 1.0 規格書 日本語版98.1


MIDI 1.0 電気的仕様改訂 CA-033


JO-MIDI-FM
--- Joy Of MIDI FM tone generator ---
汎用 4 ピンフォトカプラを使った MIDI 入力


東芝TLPシリーズフォトカプラの命名規則









1 件のコメント:

おわり

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