2025年7月7日月曜日

落雷により故障した給湯器の基板➀ ノーリツ GT-2450SAWX-2

 
落雷により故障した給湯器の基板 ノーリツ GT-2450SAWX-2


注意:この記事の内容を鵜呑みにし、事故や損失を招いた場合でも当方は一切の責任は負いかねます。自己責任でお願いします。


電子機器分解シリーズです。

落雷によって起きた誘導雷により給湯器が壊れてしまいました。
家の電化製品の中で故障したのはこの給湯器だけでした。給湯器は必ず接地して使う機器なので落雷等で壊れやすい機器の一つでもあります。

直撃雷の場合は、家電が全滅することが多いですが、誘導雷の場合は一部の機器だけ壊れるケースがあります。
今回は給湯器だけということもあり、その原因を探ってみました。故障した基板の様子を見てみます。

なお、修理業者によると、付近一帯の複数の家庭の給湯器が壊れてしまったそうです。


画像の枚数が多いのでページを分けます。


※画像の悪用の抑止のため、ウォーターマークを入れています。


基板表面の外観の異常は、電源基板のヒューズの激しい溶断ぐらいです。
ヒューズ管内部で溶断後にもアーク放電が起きた形跡があります。
ヒューズのガラスに多数のクラックが入っていて爆散寸前だったと思われます。




ヒューズの溶断能力を超えてガス放電管となってしまったのでしょうか。




XコンやYコンに外観的異常は見られません。






電源基板の絶縁ケースを見てみます。
2か所ほど金属蒸気の飛散跡があります。
また、過熱で剥離したレジストが散乱しています。



スパーク跡➀




スパーク跡➁



剥がれ落ちたレジスト



・電源基板


2EBT-A
2EBT
回路構成はPFCなしの疑似共振型RCCと非絶縁降圧DCDCコンバータです。
電源基板にはバリスタやアレスタは見られません。
コントローラ用のAC100V→DC15Vは絶縁型の疑似共振型RCCで、ファンモータ用のAC100V→DC43Vは非絶縁降圧DCDCコンバータです。
ファンモータの電源は非絶縁なため、落雷による故障が多いそうです。
落雷後にファンモータが故障していなくても、絶縁破壊が起きている場合があるので、個人での修理の際にはファンモータも交換したほうがよさそうです。





基板裏面を見てみると、1か所大きな焼損が見られます。
また、過電流による過熱でパターン剥離も起きています。



絶縁破壊が起きた場所です。
ダイオードブリッジの-端子とYコン接地端子との間に放電跡があります。



アーク放電により、はんだが飛び散っています。




フレームグランドパターンのレジストがはげ落ちています。
過電流による急激な加熱によりレジスト-銅箔間の水分が一気に気化して剥離してしまったのでしょうか?
パターン幅は1mmです。
数μ~数百msの一瞬のパルス電流で焼損してしまうことを考えると、ピーク電流は数百A以上にもなりそうです。

このフレームグランドパターンは右側の3つのYコンのみへ接続されています。



フレームグランドの表面実装0Ωジャンパ抵抗が焼損しています。
ジャンパ下には信号線が通っています。
1つは無接続、もう一つはRCCフィードバック用フォトカプラのカソードおよびシャントレギュレータのカソードへ接続されています。
スタンバイ制御信号なのでしょうか?

個人的にはフレームグランド線を表面実装のジャンパ抵抗で信号線をまたぐ設計は避けたくなります。





テスタで焼損したジャンパ抵抗の導通確認をしたところ、高抵抗を示しました。
3216サイズのジャンパが無残に焼け焦げています。
よく見ると、はんだが蒸発してフィレットが消えています。











・故障原因

AC100VのL側と接地の間に誘導雷により生じた数kV以上ものパルス電圧が印加され、ダイオードブリッジの-端子とYコンFG端子(接地)の間で絶縁破壊が起こったようです。
写真では分かりにくいですが、
ダイオードブリッジの-端子先端とそのフィレット面に放電跡あります。
Yコンの方はフィレット面に放電跡あります。

この絶縁破壊が起きた場所のパターン間のクリアランスは2.5mmほどとなっています。
単純なパターン間の放電ではなく、電界強度が高くなりやすいリード端子の先端から放電が開始し、後にアーク放電へ移行したと考えられます。
ポイントは、この場所がほかの場所に比べ電界が集中しやすい状態ということです。
この箇所はFG間までのリード端子同士の距離が基板内で最短となっています。
おそらくコロナ放電→アーク放電へ移行し焼損してしまったのでしょうか?

単純に定値以上の絶縁距離を保つような設計では、この事例のようにサージ電圧の印加により絶縁破壊を起こす場合があります。




この給湯器の電源基板にはいくつかの問題点があります。
・電源ラインとフレームグランドパターン・リード端子間の絶縁距離が足りず、基板の絶縁破壊電圧がバリスタ+アレスタの降伏電圧より小さい。
・フレームグランドパターンと絶縁2次側のパターンとの間のクリアランスが足りない。
・フレームグランド配線をジャンパ抵抗でジャンピングする。

バリスタやアレスタは、スイッチング電源ユニットの前段にある漏電ブレーカーに入っています。

やはり一番の問題は、基板の絶縁破壊電圧がバリスタ+アレスタの降伏電圧より小さいことでしょうか。

漏電ブレーカを分解してみます。




OMRON
K6S-8A2-1




特に変哲もない単純な構成です。
電源ラインと接地間のサージ吸収は、バリスタとアレスタの直列回路で構成されています。
基板外観には特に異常は見られません。

本来はこっちの方が壊れてほしかったですね。








「ZNR V14271U」 松下 ERZV14D271 バリスタ
ブレーク電圧 : 247~303V




「242 04J」 岡谷 RA-242M-V7 ガラス管タイプ ガスアレスタ
ブレーク電圧 : 1920~2880V


激しな放電跡は見られません。電極にかすかに放電跡が見えるような気もしなくはないです。
 ガスアレスタが放電する前に電源基板のリード間で放電してしまったのでしょう。


合計のサージブレーク電圧は2~3kVほどです。
大気の絶縁破壊電圧は3kV/mmと言われています。
絶縁破壊を起こした箇所のパターン間距離は2.5mm、絶縁耐圧は7kV前後はあると思われます。
ダイオードブリッジのリードとYコン側ランド間の距離は4mmほどですので、絶縁耐圧の最悪値は4kVほどでしょうか。

電源ラインとフレームグランドパターン・リード端子間の絶縁距離がぎりぎり足りず、基板の絶縁破壊電圧がバリスタ+アレスタの降伏電圧より小さくなってしまったと思います。




放電跡は見られません。






「1702」 NEC μPC1702 UPC1702 漏電遮断器制御用增幅回路



背面カバーはきれいな状態です。



・故障箇所

外観の異常個所は、ヒューズの溶断、ジャンパ抵抗の焼け、パターンレジストの剥離です。

外観に異常がなく故障している部品はダイオードブリッジです。





・故障の対策
一番良いのはやはりゴロゴロ鳴り出したら給湯器のコンセントを抜くことでしょう。
ただ、この事例はサージ周りの回路設計が甘いことで引き起こされた故障なので、設計面での対策はできると思われます。今回レベルの誘導雷くらいでは壊れないようにしたいですね。


この基板の場合の対策事例を示します。
・接地と1次側の距離は最低6~7mm以上確保する。リード線がある部分はよりクリアランスを確保する。接地と2次側もなるべくクリアランスを確保する。また、ギャップ間のパターンに丸みを付けたりして電界の集中を防ぐ。
・電源基板のフレームグランドのコネクタは2次側ではなく1次側コネクタもしくはねじ取付で接続する。
・電源基板を金属筐体に入れ、筐体を接地する。
・サージ吸収素子は電源基板上に乗せる。
・フレームグランド(接地)パターンは太くする。電源基板などの接地パターンには表面実装のジャンパを使わない。




個人レベルでサージ対策をしたい場合はやはりSPDを取り付けるのが良いでしょう。
ただし、アースの取り回しやSPD挿入位置が極めて重要になります。単純に家中バリスタだらけにしてもほとんど効果がない場合もあります。
パルス状のサージ電圧の流入対策は、経路の特性インピーダンスや配線距離に依存するので難しいところです。



画像の枚数が多いのでページを分けます。







・参考資料

松田 純一    山本 拓也
特集「解析評価技術」 誘導雷サージの発生メカニズムと対策
松下電工技報(Vol. 55 No. 4) 2007 pp.77-82







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